研究内容6 空間情報の表現と知覚
地理情報システムでは,空間オブジェクトの状態を様々な形で表現することができます.しかし,表現された空間情報をその受け手である利用者が正しく知覚するかというと必ずしもそうではありません.地図上で距離を実際よりも長く感じたり,現実が地図と合っていないと思うのは,空間情報が正しく伝達されていないということです.このような問題を解決するには,空間情報の表現と知覚の関係を知ることが必要になります.
そこでいくつか研究を行っています.まず第一に,交差点における道路の交差角度の知覚について,分析を行いました.いま,下の3つの図のように,道路の交差角度が90度,45度,30度の交差点があるとします.
地図やGISでは,交差点はこのように上から見た図として表現されます.ところが実際にこの交差点に立つと,下の図のように見えます.
平面図から想像される景色とはかなり異なるのではないでしょうか.そこで,実際の道路交差角度と,3次元の映像から想像される交差角度の関係を実験によって分析しました.
また,GISを用いて略地図を自動的に作成するシステムを開発しました.これは下の図のように,非常に詳しい地図から,道案内に必要な情報だけを取り出して簡略に表現するシステムです.不要な情報が含まれていないため,非常に見やすい表現になっています.
空間解析との関連でより実用的な問題としては,例えばGISにおける文字の大きさの選択があります.GISでは多数の空間オブジェクトの分布を画面上に表示し,それらの属性を文字という形で表します.このとき,文字が小さすぎると読みづらくなってしまいますが(下図左),他方大きすぎると文字同士が重なってしまい,読めないということが起こります(下図右).そこで,適当な文字の大きさを予め設定するための方法を研究しています.
空間情報の表現方法が,人間の知覚を通じて空間解析のプロセスに影響を与えるということもあります.例えば下の3つの図は,いずれも同じ点オブジェクト分布を表したものですが,点の大きさを変えるとまるで異なる分布のように見えます.私たちが空間解析を行う場合,このように画面上に表現された情報を基礎としますので,空間情報の表現は空間解析においても重要な問題です.
このような問題を考えるには,空間情報がどのように知覚されるのか,ということを知る必要があります.そこで上図の例では,点分布における点の塊(クラスター)の知覚を分析したり,また,様々な点分布における分布の「集中」「分散」という空間概念の伝達なども研究しています.このような研究を行うことで,人間の知覚により近い空間情報表現,さらには,人間が新たな発想を得るような空間情報表現が可能になればと思っています.
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