空間情報のインクリメンタルな視覚化のための検索手法とセンサデータベースへの応用
白石 陽
近年,ネットワークを介して様々な空間情報を利用できる環境が整備されつつある.空間情報は,地理的な位置と関連付けられる情報であり,地図データなどの空間データだけでなく,気象情報や交通情報のような環境の状態を表すセンサデータも含む.ネットワーク上に分散したデータベースから,これらの空間情報を取得し,視覚化することによって,効果的な情報提供が可能になると考えられる.
しかしながら,ネットワークを介して空間情報を視覚化する場合には,サーバ側でのデータ探索コストやクライアント側での統合処理コストの増加によって,応答時間が増大する可能性があり,インタラクティブな閲覧システムを実現する上で問題になる.本研究では,空間情報の検索の途中結果をインクリメンタルに提供することで,この問題に対処する.最終的な結果を待つことなく,ユーザの理解しやすい形で途中結果を提示できれば,処理途中でのインタラクティブな操作やデータ要求が可能となり,応答性の良い視覚化システムを実現できると考える.
本研究の目的は,多種多様な空間情報をインクリメンタルに視覚化するための検索手法を開発することである.また,その具体的な応用として,ネットワーク上の複数のセンサデータベースからセンサデータを検索する手法と,収集したセンサデータを統合する手法を開発する.
まず,ネットワークを介した空間データの検索手法として,領域分割に基づく手法を提案する.本検索手法は,クエリに指定した問合せ領域を分割して,空間インデックスを用いて管理されている空間データを,分割領域ごとに探索し,その結果をインクリメンタルに提供する.提案手法を空間データサーバの機能として実装し,地図描画アプリケーションを用いた実験を行った.実験の結果,領域分割のためのパラメータを指定することにより,ユーザの関心のある領域の空間データを優先的に取得し,効果的に表示できることを確認した.
次に,この領域分割に基づくインクリメンタルなアプローチを,センサデータベースのための検索手法に適用した.提案手法は,仲介エージェントと各データベースのラッパーとなるセンサデータサーバから構成される.各データベースは,センサデータを時系列として保持している.仲介エージェントは,クエリに指定した領域と時区間を分割し,その順序にしたがって,各データサーバへのクエリの要求と各サーバからの検索結果の転送を制御する.これにより,各サーバからのセンサデータをインクリメンタルに提供することが可能になる.センサデータ検索システムを実装し,領域と時間順序を考慮した効果的な情報提示が可能となることを実験的に示した.
さらに,複数のセンサデータベースから収集したセンサデータをインクリメンタルに統合する仕組みとして,空間集約処理に基づく手法を提案し,センサデータ視覚化システムの機能として実装した.空間集約は,地理的な関係性を利用して空間データを加工する手法であり,地理情報システムの様々な処理に用いられている.提案手法は,領域分割に基づいて提供されるセンサデータに対して,分割領域ごとに空間集約処理を行い,その集約結果をインクリメンタルに表示することができる.実験の結果,領域分割に基づく検索手法と統合手法によって, ``領域'' という意味のあるまとまりでセンサデータ統合の結果を提示できることが示された.また,提案手法がインタラクティブなセンサデータ閲覧システムを実現する上で有用であることが示唆された.