総務省統計局の家計調査年報には,1世帯当たりの年間消費支出総額が品目別に集計されています.公開は都道府県・政令市単位ですが,この値に基づく大字単位の推計値が民間企業によって提供されています.

下の図は,千葉県内の消費支出総額の分布です.東京に近い西部や地方都市部で高いことが分かります.



下の図は,日本人の主要な蛋白源である,魚と肉の消費割合(支出額)を表したものです.魚の割合の分布が消費支出総額とよく似ています.かつては魚の方が安価な蛋白源でしたが,今では肉の方が却って安上がりということでしょうか.

 
蛋白質に占める魚の割合
 
蛋白質に占める肉の割合

次に,肉の消費総額に占める,牛肉,鶏肉,豚肉の割合を見てみましょう.牛肉の分布は魚の分布と,豚肉の分布は肉全体の分布と,それぞれ強い相関がありそうです.鶏肉はその中間か,やや豚肉よりというところでしょうか.

   
肉に占める牛肉の割合
 
肉に占める鶏肉の割合
 
肉に占める豚肉の割合

今度は魚についてみてみましょう.たいとかには魚全体の,まぐろといかは肉全体の分布と似ていることが分かります.前2者は漁港のある町で高くなっていますが,後2者は反対の傾向が見られるのも興味深いところです.

     
魚に占めるたいの割合
 
魚に占めるかにの割合
 
魚に占めるまぐろの割合
 
魚に占めるいかの割合

次は果物です.メロンといちごは比較的高額な果物ですが,消費支出総額との相関はメロンが正なのに対していちごは負です.比較的安価なみかんは,消費支出総額と正の相関がありそうです.千葉県はイチゴやなしの産地ですが,産地の近辺で割合が高いように思われます.

     
果物に占めるみかんの割合
 
果物に占めるメロンの割合
 
果物に占めるいちごの割合
 
果物に占めるなしの割合

調味料はどうでしょうか.和食の基本,「さしすせそ」の順に並べてみましょう.消費支出総額の分布に近いのが砂糖,酢,醤油,反対のパターンが塩と味噌です.野田や銚子は有名な醤油の産地ですが,飛び抜けて値が高いというわけではありません.代表的な発酵調味料の醤油と味噌の分布が正反対である点が面白いところです.

       
調味料に占める砂糖の割合
 
調味料に占める塩の割合
 
調味料に占める酢の割合
 
調味料に占める醤油の割合
 
調味料に占める味噌の割合

下図は酒類の分布です,日本酒,ビール,ワインの分布が似ているのに対し,焼酎の分布がほぼ正反対です.前者は東京近郊や地方都市部で多く消費されており,消費支出総額の分布とも類似しています.食べ物では魚,牛肉,たい,かに,それに対して焼酎は肉,中でも豚肉,まぐろ,いかでしょうか.酒と食べ物の相性が影響しているようにも思われます.

     
酒類に占める日本酒の割合
 
酒類に占めるビールの割合
 
酒類に占める焼酎の割合
 
酒類に占めるワインの割合

最後は番外編,全国酒蔵の分布です.



従来は灘,伏見,西條,近年は新潟を酒処と呼びますが,全国津々浦々,酒蔵があることが分かります.食文化の重要な担い手の一つと考えるのは,酒呑みの贔屓目でしょうか.

食文化の傾向を全国レベルで記述する試みはよく行われますが,一つの地域で詳細に見るのも面白いものです.様々な情報を地図として可視化し,それらを眺めているだけでも,随分といろいろなことが分かり,また,そこから想像力を働かせることができます.空間情報科学の醍醐味の一つではないでしょうか.

データ源:株式会社JPS 消費支出推計データ2010,株式会社フルネット 酒蔵名鑑2012