古い空間情報をデジタル化してGISで利用するという試みが,近年進みつつあります.

下の図は,千葉県内の現在の交通網(左図)と,江戸末期の交通網(中・右図)を比較したものです.前者が東京を中心とした体系になっているのに対し,後者では太平洋と江戸湾を河川と街道で繋ぐものが多数,見られます.右図では,江戸期の交通網が地形に添って組み立てられている様子が分かります.

   
現在のJR線(白色)とその他の私鉄(緑色)
 
江戸末期の主要街道(白色)と水系(水色)
 
江戸末期の交通網と地形の関係

下の図は,街道の名前を宿場の分布を表したものです.長距離の移動に対する需要に応えるために,あまり間隔をおかずに宿場が設けられていることが分かります.

 
主要街道
 
主要街道と宿場町

下左図は,江戸末期でのこの地域に占める領地の面積構成を表しています.大きな割合を占めているのは旗本領と幕府領で,合わせて5割強になります.他の領地も,徳川一族や譜代大名の所有するものが多く,江戸に近いこの地域を重視する政策が読み取れます.

下中図は,領地分布と街道の関係を表したものです.中央の大きな部分を占めるのが佐倉藩,徳川一族や譜代大名が代々治めてきたこの地が,江戸の入り口に当たる交通の要衝であった様子が分かります.

当時この地域には,佐倉藩や関宿藩,久留里藩など,居城を当地に置く藩がある一方で,山城淀藩,駿河田中藩,遠江浜松藩など,国外領主が有している領地もありました.下右図は,こうした国外領主の領地の分布を表しています.領地が半島の突端や北端の利根川沿いに多いのは,国外からのアクセスを考慮したものと考えられます.

   
領地の面積構成
 
領地分布と街道の関係
 
国外領主の領地分布

このような古い空間データは,すぐにGISで使える形で入手できるわけではありませんが,様々な情報源を辿ることで,このように可視化することが可能です.上のデータは全て,インターネット上で手に入る情報のみに基づいて作成したものですから,日本全国でこのような地図をつくることができます.

出典:貞広幸雄 (2012): GISとインターネット情報による江戸期以降の歴史空間データの迅速作成, 日本地理学会2012年度秋季学術大会発表要旨集, 825, 神戸.