現在,全ての携帯電話にはGPSが組み込まれており,それを使って人間の移動経路を随時,記録しておくことができます.

下左図は,ユタ大学博士課程3年の大学院生が,2007〜2008年の間の自分の移動経路を全て,GPSで記録したものです.自宅から大学への通学が多くを占めていますが,空港やスキー場などへの移動も見られます.

下右図は,ダウンタウン地区の拡大図です.当時は未だ,GPSの精度がそれほど高くなかったため,位置情報に随分と誤差が含まれています.

 
2年間の移動記録
 
ダウンタウン地区の拡大図

このようなノイズは,現在でもGPSで取得したデータには必ず含まれています.そのため,GPSデータの利用にはまず,このようなノイズを除去する必要があります.

下左図は,この地域の道路ネットワークデータです.移動は基本的に道路上で行いますので,GPSデータを道路データ上に同定することで,ノイズをかなり,除去することができます.その作業を半自動的に行うプログラムを作成し,各道路の通過頻度を色分け表示したものが下右図です.但しここでは,自宅とユタ大学を起終点とする移動のみ,集計しています.

 
道路のネットワークデータ
 
各道路の通過頻度

この研究の目的は,典型的な通学パターンを見つけることです.似たような経路が多いのですが,それでも日によって通学途中にダウンタウンで買い物をしたり,友人の家に寄ったりするために,全体としては非常に多様です.しかし,上右図を見ているだけでは,そのようなパターンを見つけることはできません.そこで,典型的経路を見つける方法を新たに開発しました.

その結果,下図のような5つのパターンが見つかりました.当初この大学院生は,自宅から路面電車の電停まで車で移動し,駐車場に車を置いて路面電車に乗り換え,大学に通っていました(図中の水色と紫色).しかしその後,自宅から大学まで全て自動車で,高速道路を利用して通学するようになります(緑色).ところがこの経路の途中で道路工事が始まり,ひどい渋滞が発生します.この渋滞を避けるために,今度は赤色と黄色の経路を使うようになりました.このうち黄色の経路は,午前中は渋滞することに気づき,最終的には行きは赤色,帰りは黄色と使い分けるようになりました.

主な通学経路

典型的な通学パターンを見つけることで,経路の変遷やその理由が明らかになりました.大学院生本人も,過去の十分な記憶がなかったのですが,この分析結果によって,改めていろいろなことを思い出していました.

出典:Sadahiro, Y., R. Lay, and T. Kobayashi (2013): Trajectories of moving objects on a network: Detection of similarities, visualization of relations, and classification of trajectories, Transactions in GIS, 17 (1), 18-40.