都市の中を移動することで,私たちは頭の中に地図を作り上げていきます.経験に基づいた地図は,各個人の経験や印象によってそれぞれ異なっています.

下の図は,東京大学工学部都市工学科の学部生53名と大学院生17名に,青山とはどのような範囲を指すと思うかと尋ね,その結果を全てを地図上に重ねたものです.



ひとことで青山と言っても,人によって随分と思い浮かべる範囲が違うことが分かります.このような違いは何故起こるのでしょうか.

そこで,このような図形(青山を示す範囲)同士の関係を分析し,それらを分類する方法を開発しました.

下の図がその結果です.70名分の地図は,大きく4つ(A, B, C, D),さらにそれぞれがいくつかに分類できることが分かりました.



それぞれ地図で見ると,下図のような分布をしています.

 
群A (A1, A2)
 
群B

 
群C (C1, C2, C3)
 
群D (D1, D2)


各被験者には,この地域をいつ頃から何度くらい訪れているかを聞いています.それらの情報から,地図の形成要因を以下のように推定できます.

 ランドマーク  主な被験者  地図の形成要因
A
 青山1丁目駅  大学院生(社会人)  青山1丁目駅周辺の店舗を何度も訪れている.
B
 表参道駅  学部2年生  表参道駅の交差点の印象が強い.
C
 青山学院大学  学部2年生  訪問経験が乏しく,青山学院大学を最初に想起する.
D
 表参道駅及び青山1丁目駅  大学院生(社会人)  表参道駅及び青山1丁目駅を端点とする,広い地域の店舗を何度も訪れている.


この地域を良く訪れている社会人大学院生が,青山を広く捉えているのに対し,ほとんど訪れたことのない学部生は,青山学院大学という名前に基づいて地域を捉えています.個人の経験や,地域のランドマークとなる駅,施設などが,それぞれの頭の中の地図を形作る重要な要因であることが分かります.

出典:Sadahiro, Y. (2012): Exploratory analysis of polygons distributed with overlap, Geographical Analysis, 44 (4), 300-367.